和装喪服の着物の夏用と冬用の着用時期はいつからいつまで?

黒喪服の種類

黒喪服には、着用時期ごとに
①袷(あわせ)
②単衣(ひとえ)
③絽(ろ)
の3種類が有ります。

袷は、生地を二枚縫い合わせた裏地のある着物

単衣

単衣は、裏地の無い一枚だけの着物

絽は、裏地の無い一枚だけの着物で透けた生地の着物

※紗
夏用の着物の生地で、絽の他に、紗(しゃ)という生地も有ります

 

絽と紗の簡単な見分け方

絽は縞模様の様な生地(平織と綾織部分があるため、隙間が縞模様のように入る)
紗は網目の様な生地

比較すればひと目でわかります。

格としては、絽が上

絽より透け感のある紗は、
カジュアルからセミフォーマルの場面で用いられ、
絽は、フォーマルな場面で正装用の着物にも用いられますので、
夏用の黒喪服をお持ちの場合、殆どが絽であると思われます。

黒喪服の着用時期

本来は正式には、

袷の着用は10月11月12月1月2月3月4月5月
単衣の着用は6月と9月
絽の着用は7月と8月

ですが、

最近では単衣の喪服を持っている人はかなり少なく袷と絽で済ませることが多い様です。

 

7月と8月は絽

絽は、7月と8月は、いつでも着られます。

 

6月と9月に、絽か袷かどちらを選べば良いのか

悩みどころですが、
住んでいる地域や、その年の気候、その日の気温などで一概には言えませんが、
6月は、体感的に夏の暑さを感じた頃から“絽”、9月は、9月9日の重陽(ちょうよう)の節句までは“絽”、
重陽(ちょうよう)の節句以降は“袷”を着用するのが無難だと思います。

6月に入っても、初旬から中旬あたりで、さほど暑くない気候であれば、どちらかと言えば“袷”が良いと思います。理由は、6月と9月の従来の決まり事の“単衣”に“見た目”が近いのは、透け感の有る“絽”より“袷”だからです。

※余談になりますが、10月、11月、12月、1月、2月、3月、4月、5月には、透け感の有る“絽”を着ていたら明らかにおかしいですが、“絽”を持っていない場合に7月と8月に“袷”を着る事は、全然マシだと思います。なぜなら、7月と8月の結婚式で黒留め袖を着る場合、“絽”の黒留袖を着る方は皆無に等しく、世間一般の常識的にも“袷”が通用していて普通となっているからです。私も実際に7月に袷の黒留袖を着た事が有りますが、空調も完備されている施設の中では、特に問題は無かったです。

追記すると、黒喪服と黒留袖では、着るシーンの中で異なる要素が有ります。黒喪服を着るお葬式に比べると、黒留袖を着る結婚式においては、後々まで残る記念写真に写る機会が多い点です。もしも、わざわざ“絽”の黒留袖を準備したとしても、“絽”の透け感故に、一番目立つ胸元まわりの長襦袢が下に透けて見えると、少し白っぽくなり、写真写りが、“袷”を着ている他の人と比べて目立ってしまうのではないかと私は思います。

黒喪服に関しては、“絽”を持っていれば、7月と8月には“絽”を着るのが普通です。

《考察と見解》

現在では、単衣の黒喪服は一般的ではなくなってきて、6月と9月の黒喪服について、さまざまな考え方が有り、昔より夏が暑いので、6月も9月も、絽で構わないという洋服の衣替えと同じ考え方も有りますし、南北に細長い日本の気候には地域差が有り、また、その日の気温次第で、絽が良いのか袷が良いのか、悩んでしまうと思います。

私は、“着物の季節は先取り”と認識しているので、6月よりも9月が悩みどころだと思っています。9月9日は重陽の節句、9月半ばは十五夜(中秋の名月)、その後には秋分の日…いくら残暑が厳しくても、暦の上では秋の歳時記が目白押しです。

私は、体感的にも、一年で一番暑いのは、やはり7月下旬の“大暑”のあたりだと毎年思います。8月下旬の“処暑”のあたりから9月9日の重陽の節句にかけての時期は、日中はまだまだ真夏の暑さでも、朝夕は少しはマシで、暑さのピークもやっとおさまったと、大概、感じられます。

私は諸説ある中でも、自分が一番しっくりくるところの、重陽の節句を、絽と袷の境目と判断しましたが「“重陽の節句までは絽、重陽の節句以降は袷”って言われても、じゃあ、重陽の節句の当日の9月9日は、一体どっち?」とまで思いました。重陽の節句に“絽”の着物の着納めをする。というネットの書き込みも見かけました。悩んで色々考えた結果、重陽の節句は、菊の節句と呼ばれ、秋祭りと一緒に祝う事が多かったらしく、“お九日(おくんち)”とも呼び、北九州地方では、秋祭りは全て“おくんち”と呼んでいるらしいので、9月9日の当日は袷が望ましいと解釈しました。もはや、イメージの問題かもしれません。

ハッキリ言える事は、絽の黒喪服には透け感が有ります。私は、畳んだ状態だけを見たのとは違い、絽の黒喪服を実際に広げて着物ハンガーにかけてみた時、透け感に驚きました。

暑さも気になるし、季節の先取りも気になるし、9月に絽か袷か、どちらを選ぶかは個人差が有ると思いますが、重陽の節句以降は袷と決めたとして、暑い9月に袷の黒喪服を着る場合、長襦袢は夏物を着ると、かなり楽だと思います。

それと、私の個人的な感想では、黒喪服を着用するのは、故人にごく近しい親族で、ほとんどが、お通夜の席から室内にずっと居て、夏場なら、どこもかしこもクーラーはガンガンで寒いくらいで、若者やチビッ子が多ければ、クーラーの設定温度も自分の家よりかなり低い事も多いと思います。着付けの時も、クーラーガンガン、黒喪服を着た後はずっと、クーラーガンガンです。葬儀が終わり、出棺の際には、玄関から車かマイクロバスに移動する間のほんの少しの時間のみ、そして、斎場に到着した時も同じく、車の乗り降りのわずかな時間のみ、外の暑さに遭遇しますが、それは、ごく短い数分間で、我慢大会ってほどでは無いです。

昔、近しい親族が皆、和装の黒喪服を着ていた時代には、自宅やお寺でのお葬式が多く、空調設備も完全に整っていなかったであろう環境の中、四季の気候に合わせて『袷、単衣、絽』と3種類の黒喪服を着分けるのが普通で、嫁入り道具に必ず持って行っていたのでしょう。

私は都市部に住んでいますが、最近は、近所の方のお葬式も、ほぼ100%セレモニーホールで執り行われ、屋外で待機したりする事も殆ど無く、年中、暑さ寒さの心配が無用となってきました。

黒喪服の常識も、今は、裏地の有無以外の“見た目”が近い袷と単衣は、兼用で『袷』、プラス、透け感の有る『絽』の2種類の黒喪服で済ませる事が一般的ですが、私の個人的な考えでは、真夏にお洒落着として着る絽の着物は別として、礼装の分野での黒喪服に関しては、将来的に、『絽』も姿を消して、黒留袖と同じく、『袷』を1年中着用する時代が来るのではないかと思っています。〈昭和の途中までは、袷と単衣と絽の3種類の黒喪服を着分けていて、それが、平成では、単衣の黒喪服はほとんど着なくなりました。やがて、絽の黒喪服もほとんど着なくなり、今では、黒留袖や黒喪服などの礼装の着物は、年中、袷を着用する事が一般的です。〉…と?なるかもしれないと予想しています。「1年の中で、7月と8月の2ケ月だけの為に、昔は、わざわざ『絽』の黒喪服まで仕立てて持っていたなんてねぇ…」と言う時代が来るのではないでしょうか?しかし、よくよく考えると、黒喪服に関しては、『単』が一番“使える”ような気がするので、私一個人の希望としては、“一年中、黒留袖は『袷』のみ。黒喪服は『単』のみ。”という案がもしも常識になって定着してくれたら、本当はそれが一番合理的だと思っています。

 

黒喪服収納時の分類と整理

黒喪服の収納に関して、私は、メモ用紙に穴あけパンチで穴を開け、“夏用喪服”や“夏用喪服用長襦袢”や“夏用喪服用帯”などと明記してから、
たとう紙の布紐に通しておいて、ひと目で、夏用か冬用かがわかる様にして和箪笥に収納しています。
留め袖とは違い、喪服は、いつ必要になるか予測できません。長襦袢の半襟も、予め付けておけば安心です。

 

黒喪服の支度をメモに書いておく

和箪笥の引き出しには、黒喪服支度の小物一覧表のメモも入れておけば、とっさの時にも、その一覧表通りに小物をすぐに準備でき、忘れ物の心配も有りません。

不意の弔事の時に落ち着いて準備できる様、黒喪服の支度の一覧表をメモ書きしておき、和箪笥の引き出しに入れておくと同時に、全ての小物類も、すぐに取り出せる様にまとめておくと安心です。

また、黒喪服と長襦袢と帯の3点に関しては、和箪笥のどこに仕舞っているのかもメモに書き添えておけば、あわてずに済みます。(衣装盆の上から○段目。等)

和ダンスの中には収納できないバッグについて、洋装のブラックフォーマルで葬儀に参列するバッグと同じ物を使っているのであれば、念珠などと一緒に、すぐに取り出せる場所に収納している事が多いと思いますが、普段のお出かけ用のバッグとは違い、箱に入れたりして、置き場所を変えると、案外、探すのに時間がかかる事が有ります。メモにはバッグの収納場所も書き添えておけば、安心です。(黒い草履を下駄箱以外に収納している場合も同様です。)

 

黒喪服の支度

黒喪服(季節に応じて、袷・単衣・絽)

黒喪帯(くろもおび)(黒喪服に応じて、緞子(どんす)や繻子(しゅす)地・絽)※名古屋帯の黒喪帯で、夏用と冬用は、並べて比べるとすぐに見分けられます。※リバーシブルで、片面が夏用、もう片面が冬用の、夏冬兼用の京袋帯の黒喪帯が有ると聞いた事がありますが、見比べたら見分けられると思います。

帯揚げ(黒。光沢の無い縮緬(ちりめん)など)

帯締め(黒。平組みの組紐)※平に組まれている平組みの帯締めが一般的で、シッカリ締められる感触

 

長襦袢(黒喪服に応じて、夏用と冬用)(半襟は白で刺繍などの入っていない無地を縫い付けておく)

襟芯

肌襦袢(白の晒木綿、襟も白)

裾よけ(白)

白足袋(キャラコ、5枚こはぜ、もしくは4枚こはぜ)※キャラコとは細かく織られた薄手で光沢の有る綿の生地

腰紐3~4本(できれば白や黒)

伊達締め2本(長襦袢用、黒喪服用)

帯枕(できれば黒、白、薄いピンクなど帯揚げから透けない無地)

帯板(できれば黒、白、淡い色、長めで幅広)

有れば便利な小物 ウエストベルト2本、コーリンベルト1本

 

バッグ(黒、できれば布製、もしくは光沢の無い革)念珠と白いハンカチだけは、忘れずに。

草履(黒、光沢の無いマットな素材感)※底の裏側にマジックで小さな印や記名をしておくと安心です。

 

《喪扇(もせん)に関して》

結婚式の留め袖には祝儀扇(しゅうぎせん・しゅうぎおうぎ)を必ず持ちますし、着付けの本などには不祝儀用に喪扇が載っている場合が有ります。

私は、何冊もの着付けの本を所有していて、その中の1冊に、喪扇も忘れずに…と記載されていて、私が実際に和装の黒喪服の準備をした時に、喪扇など持っていないので、あわてて、セレモニーホールで販売しているか電話で問い合わせたのですが、セレモニーホールのスタッフの方から、「特に必要は無く、それほど一般的ではない」と教えてもらい、使いませんでした。皇室の方々が喪扇を手にされるのはテレビで見かけた事が有りますが…

 

《黒喪服を実際に着た後の感想》

最近は、和装の喪服を着る人も減っている様ですが、私は、嫁入りの時に仕立てて袷と絽の黒喪服を持っていたので、せっかくなので着ました。しかし、葬儀の当日の朝は、うまく帯が巻けずにマゴマゴしました。普段、名古屋帯を巻く着物は殆ど着た事がなく、子供の卒業式や入学式に着た訪問着には袋帯で二重太鼓を結び、親戚の結婚式に着た留め袖には丸帯で二重太鼓を結び、二重太鼓には慣れていて、単純で簡単なはずの喪服の名古屋帯を巻く時に、身体のラインが細めなので、長さが余って(?)カンが狂ってしまった事と、鏡が備え付けてあった和室で着付けたのですが、壁に取り付けてある動かせない鏡で、部屋の照明は暗めの蛍光灯、おまけに視力が悪く、着物も帯も何もかも黒一色の為、見づらくて着付けしにくかったのです。1ケ月半の間に2回も和装喪服を同じセレモニーホールの和室で自分で着付けたのに、2回とも手こずりました。

その経験上、黒喪服用の黒喪帯に関しては、形を作って糸で留めておく“切らない作り帯”を用意しておけば楽だと思いました。

知人が、「黒喪服は持っているが、後の手入れも大変なので、お葬式の日にレンタルで借りて着付けも依頼して、終わったら脱いでその場で返した。とても楽だった。」と言っていました。私は、せっかく自分の黒喪服を持っているし、レンタルだと紋も違うし、後の手入れなんて、1~2日、着物ハンガーにかけておいて、畳んで和箪笥に仕舞うだけだし、後の手入れを気にして自分の黒喪服を着ないのは、それこそ、手入れ以上に黒喪服を無駄にしてしまう事になり、勿体無いと思いました。